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無謬(むびゅう)性信仰の恐ろしさ(2)


亀井です。

さて、無謬性信仰の問題点を映画「ラストサムライ」で学びましょう。
・・・ほんとはこの映画好きで無理やりこの映画の話に持ち込みたいだけです。すみません。

本作ですが、渡辺謙とトムクルーズが主演し、
ハリウッド映画として戊辰戦争をうすーく下敷きにしつつ、「武士道」をテーマにした作品です。

Wikipedia によると、

脚本を共同で執筆した監督は、アイヴァン・モリス『高貴なる敗北』[6]の「第9章 西郷隆盛伝」に、影響を受けたことを表明しており「明治維新の実現に当初貢献しながらも、やがて新政府に反旗を翻した西郷隆盛の美しくも悲劇的な生涯が、我々の架空の物語の出発点となりました」と語っている。なおモリスは、三島由紀夫の友人で、三島作品の英訳者の一人。三島は『革命哲学としての陽明学』という評論の中で、西郷が死にいたるまで愛読していたのが大塩平八郎の書であったことを指摘し、その思想は脈々と波打ち、西郷の生涯で再び陽明学の不思議な反知性主義と行動主義によって貫かれたと論じている。モリスは序文で三島からの託された思いが強いと述べている[注 3]。

だそうでして、まあそんな感じの映画です。
「ラストサムライ 名言」でググると全く出てこないので参っちゃったのですが、
作中、渡辺謙演じる勝元と明治天皇の会話があります。
尊王派とか攘夷派とかあんまりこの映画を見る上では関係ないので、
その概念はバッサリ削っちゃいます。
まずここでの登場人物から。

勝元

「現人神」たる明治天皇を尊崇し、武士たることを辞めない勝元。
天皇を中心とする日本、
それを数百年にわたり支えてきた武士を尊重する立場です。

大村をはじめとする元老

日本陸軍強化のために西洋化を推し進め、
私腹を肥やす大村をはじめとする元老たち。
元老たちの中には武士であり続けることを選択した勝元にたいして
忸怩たる思いを持つ者も居るようですが、
中心人物である大村には逆らうことが出来ません。
武士は時代遅れ、
ひいては日本何たるかというような事よりも、
西洋化や私腹を肥やすことを優先しているように見えます。

明治天皇

列強からこの国と民を守らねばならぬという思いはあるものの、
どのようにすればそれが実現できるのかわからず懊悩します。
大村の言うように武士は前時代的なものとして切り捨て、
西洋化を進めるしかないのでしょうか。

上京し、明治天皇や元老らと面会する勝元。
元老たちは和装に帯刀姿の勝元をいさめ、
議会への出席を拒否します。
勝元も「刀を捨てる事は出来ませぬな。」
と議会を退席します。

その後、勝元と明治天皇は二人で庭を歩きながら会話をします。

※何とか英語の字幕だけはネットで拾えたので、私の記憶でセリフを復元してます。ニュアンスが違っちゃってたらゴメンナサイ。

勝元「もし私が不要と思し召しでしたら、喜んでこの命、断ちましょう」

明治天皇「いや、議会にはお前の言葉が必要なのだ」

勝元「陛下!私共こそがあなた様のお言葉を必要としておるのです。現人神であらせられる陛下のお考えのままになさいますよう。」

明治天皇「ふっ、彼ら(大村ら元老たち)の意に沿っているかぎりは朕は現人神なのであろうな。」

勝元「!陛下!誠に僭越ながら、なんと情けなきお言葉か。」

明治天皇「・・・・教えてくれ。私はどうすれば良い、勝元」

勝元「(ばっ!とその場に着物をさばいて、ひれ伏す)私など!万世一系の現人神たる陛下だけが民を照らす英知をご存じなのです。」

胸につまるシーンです。
そして勝元がひれ伏す演技がカッコ良いです。
若き明治天皇はこの時、
勝元と大村ら元老たちとの間で板挟みになって、
どうしたらいいのかわからないわけです。

そして、「陛下は現人神です」という勝元に自嘲して、
「大村らの操り人形として言いなりになっている間だけは大村らも私の事を現人神と認めるのだろうな」
と自暴自棄とも取れる発言をします。
そしてついに、悲壮な表情で「教えてくれ、勝元」とまで言います。
それに対してあくまで天皇は無謬でなければならないと考える勝元は、
「陛下がご存じでいらっしゃる」と重ねて答えてこのシーンは終わります。

勝元が日本の将来、
列強に対抗しつつ日本のよきところをよきままにするアイデアを持っていたかは不明です。
無謬ってこういう事だと思います。
誰にも聞けない、教えてくれない、相談出来ない、間違えられない、周囲は思考停止。これは恐ろしい。

明治天皇は仕方なかったと思いますが、
天皇でもない我々が好きこのんでこんな状況に身を置く必要は無いでしょう。
どんどん聞きましょう、間違いましょう。

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